シリーズ:豊かな言の葉・その3 ~椿の花咲く頃に想う
3月8日、公立高校入試の朝、庭の椿の花が咲きました。
春の季語の一つである椿。どんな花か見たことがないという生徒さんのために、持ってきますと約束していました。
赤く鮮やかな花の色と対照的な、厚ぼったくてしかっりした葉の艶やかな濃い緑。
この美しい姿を、ぜひ見てもらいたかったのです。
今年の寒さが例年より厳しかったためか、つぼみは固いまま、なかなか緩みませんでした。
実物を見せられないまま入試が終わってしまい、約束が果たせなかったことを残念に思いました。
しかし、入試の朝に花開くなんて、幸先が良いなと、縁起の良いことかもしれないと思うと、
受験生の皆さんそれぞれが、花を咲かせてくれるに違いないと、わくわくしました。
入試が終わってからも、椿の約束をした生徒さんが、塾に通うことが分かり、
無事に椿を見てもらうことができました。
椿のつぼみを眺めて、まだかまだかと、こんなに春の待ち遠しかったのは、初めてかもしれません。
合格の知らせがぽつぽつと耳に入り、胸の熱くなる思いもさせていただきました。
こんなに嬉しいものかと、生徒さんたちの頑張ってきた姿を思い出し、
一緒に勉強させていただいた日々を想い、素敵な仕事だなと改めて思ったことです。
泣けるほど嬉しいことがあるなんて、本当に幸せです。皆さんとの出会いに感謝します。
さて、春の季語ですが、椿以外に、樹木に咲く花として代表的なものを挙げてみましょう。
いくつ、その花の姿かたち、色、香り、思い浮かべられますか?
薔薇(ばら)・梅・桜・桃・沈丁花(じんちょうげ)・木蓮(もくれん)・小手毬(こでまり)・藤。
それぞれに可憐だったり、華やかだったり、花を思い浮かべると、
春の希望に満ちた雰囲気や、別れや決断の辛さや切なさ、いろんな気持ちも一緒に浮かんできませんか?
受験用の演習をしながら、俳句や短歌、詩歌の鑑賞の問題になると、
途端に解くスピードの落ちる人、苦手だという人が多いことに気がつきました。
季節ごとの空模様、花や鳥、虫や魚などについて尋ねてみると、あまり関心がないのか、
「見たことない」「気にしたことがない」「想像できない」
などという返事が多いのです。
大分県の県鳥はめじろですが、姿も声も、知っていると答えた人はいませんでした。
私自身も本物のめじろの姿は見たことがありますが、声を聞いたことがありません。
姿を見て、うぐいすと間違ったほどです。(うぐいすは姿より、その美声の方が、身近かもしれません。)
県のマスコット「めじろん」なら、踊りを見せてもらい、握手もしてもらったことがありますが、
野生の生き物に直に触れる機会を持つのは、なかなか簡単なことではないかもしれません。
マンション住まいで、庭木を目にする機会が少なくなってもいるでしょう。
とはいえ、街路樹や公園の樹木など、あまり気にかけていないだけで、
緑はけっこう身の回りにあるものではないでしょうか。
虫の声や、鳥のさえずり、風のにおいや肌に触れる感触。
詩歌や俳句の中に詠み込まれた四季折々の美しさ、命の営みに、
ほんの少し敏感になってみると良いのかもしれません。
学校の帰り道。ちょっと立ち止まって空を見上げてみたり、
足元の一輪のすみれの花に目を向けてみる瞬間も大切なことのように思います。
美しい日本の春を、いつもよりちょっぴり丁寧に感じてみませんか?
ほんの少し言葉が豊かになり、日々の生活が潤って、俳句や詩歌の世界も、遠いものではなくなるかも知れません。
切り取られた一瞬が、永遠のものになるのです。